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東京地方裁判所 平成5年(ワ)18978号 判決 1994年7月22日

原告

菊池美枝

被告

城西タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自一四七万六一九八円及びうち一三四万六一九八円に対する平成五年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告ら連帯の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自二八九万二四五〇円及びうち二一〇万七四五〇円に対する平成五年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、乗つていたタクシーの出合頭の衝突事故によつて負傷した乗客が、民法七〇九条に基づきタクシー運転手に対して、また、自賠法三条に基づきタクシー会社に対して、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

平成五年一月一五日午前一一時四五分ころ、東京都目黒区八雲三丁目二九番一二号先路上において、被告阿部正之が運転する被告城西タクシー株式会社保有の事業用普通乗用自動車と、訴外内田耕造が運転する普通貨物自動車が双方の過失により出合頭に衝突し、被告阿部正之運転の前記普通乗用自動車の後部座席に客として同乗していた原告が頸椎捻挫の傷害を受けた(傷害の点については甲三の1、その余は争いがない)。

二  本件の争点

被告らは損害額を争う。

第三争点に対する判断

一  損害額について

1  治療費〔請求額五七万五〇〇〇円〕 二八万七五〇〇円

原告は、本件の事故により被つた傷害の治療のため、平成五年一月一六日から同年二月二〇日まで大脇病院に通院し(実通院日数七日間)、同年二月二三日から同年七月七日までむかし接骨院に通院した(実通院日数九三日間)ことは当事者間に争いがなく、証拠(甲四)によれば、むかし接骨院における治療に関しては、その内容は電気療法、マツサージ等であること、原告は、一日おいて二日又は三日連続して通院という頻度で、一ケ月当たり二〇日前後と頻繁に通院していたこと、治療費は合計五七万五〇〇〇円であることが認められる。ところで、証拠(甲九、原告本人)によれば、右接骨院における治療は原告の治療を担当した医師の指示に基づくものではないことが認められ、また、本件事故の態様、原告の傷害の部位程度等の諸事情に鑑みれば、一ケ月当たり二〇日前後マツサージ等の治療を受けなければならないような状況にあつたと認めるに足りる確証はないから、右金員の二分の一に相当する二八万七五〇〇円に限り本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

2  診断書料〔請求額二〇六〇円〕 二〇六〇円

証拠(甲五)により認められる。

3  通院交通費〔請求額八万〇五五〇円〕

四万四三四〇円

証拠(甲六、九)によれば、原告は、大脇病院に通院するためタクシーを利用し八一三〇円の支出を、むかし接骨院に通院するためバス及び電車を利用し七万二四二〇円の支出をしたことが認められるが、むかし接骨院への通院に関しては、本件事故の態様、原告の傷害の部位程度等の諸事情に鑑みれば、一ケ月当たり二〇日前後マツサージ等の治療を受けなければならないような状況にあつたと認めるに足りる確証はないから、右通院に要した交通費の二分の一に相当する三万六二一〇円に限り本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

4  休業損害〔請求額一二二万四八四〇円〕

五一万二二九八円

証拠(甲七ないし九、原告本人)によれば、原告は昭和四三年六月二八日生まれの事故当時二四歳の女子であつて、短大卒業後不動産会社に会社員として勤務した後平成四年一二月をもつて退職し、同月人材派遣会社に派遣社員として登録して、一般事務職員として派遣先企業が決定するまで自宅で待機中に本件事故に遭遇したところ、派遣先企業で常勤扱いとなれば固定給として毎月一四万五〇〇〇円の支給が約束されていたこと、原告は、治療のため病院と接骨院に通院することとなり、派遣先企業での連日勤務がかなわなくなつて、事故の翌日から接骨院の通院が終了するまでの一七三日間具体的な派遣先企業が決まらなかつたことが認められる。本件事故の態様、原告の傷害の部位程度等の諸事情に鑑みれば、右通院期間のうち、接骨院への通院期間一三五日のうちの後半部分にあたる六七日の間派遣先企業が決まらなかつたことと本件事故との間には相当因果関係はないというべきである。したがつて、原告は、本件事故によつて、一〇六日間にわたつて派遣先企業が決まらず、その間、一月当たり一四万五〇〇〇円の固定給に相当する一日当たり四八三三円程度、合計五一万二二九八円の損害を被つたものと推認することができる。

5  慰謝料〔請求額八〇万〕 五〇万円

原告の傷害の部位、程度、相当と認める通院期間その他本件の審理に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の被つた精神的苦痛に対する慰謝料は五〇万円と認めるのが相当である。

6  損益相殺

証拠(乙一、二)によれば、被告城西タクシー株式会社が大脇病院及びプラザ薬局における治療費合計六万五一四〇円を原告に代わつて支払つたことが認められるが、弁論の全趣旨によれば、原告は右治療費については被告らによつて支払済であるとして本訴請求から除いていることが認められ、右によれば、前記1ないし5の損害から右既払金を控除すべきではないというべきである。

7  弁護士費用〔請求額二一万円〕 一三万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、請求認容額、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は一三万円と認めるのが相当である。

二  結論

以上の次第で、原告の被告らに対する請求は、各自一四七万六一九八円及びうち一三四万六一九八円に対する不法行為の日の翌日である平成五年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度において理由がある。

(裁判官 齋藤大巳)

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